東急不動産分譲マンション 施工不良で建て替え方針も一転中止 住民と訴訟トラブルに
問題となっているのは平成10年に完成した8階建て、49戸の分譲マンション「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」。6月中旬に訪ねると人の気配はなく、周囲を囲む工事用のフェンスに「今週の作業予定」と書かれたホワイトボードがかかっているが、予定は空欄になっていた。
訴状などによると、問題の発端は、マンション1階の壁や床に発生し続けていたカビだった。30年ごろ、管理組合が同社に調査を依頼。すると、雨水配管や通気管の設置が適切でなかったことに加え、配管をはりなどに通すための穴が後から施工されていたことが判明した。この際、内部の鉄筋が切断され耐震性が低下していた。
東急不動産は「安全性に極めて問題がある」として、修繕工事では改善不可能と判断した。令和3年4~6月に住民らにマンションの建て替えと、工事中、費用を同社が負担して仮住まいに移ることを提案。住民側も同意して話は進んだ。
だが4年になり、マンションの建つ方角が、当初の設計と14度ずれていることが新たに発覚する。方角が異なれば、建物でできる日陰の方向や範囲が変わるため、建築基準法に抵触することになり、同じ形状で建て直すことはできない。
それでも6年1月、新たな建築計画案が策定され、2月25日に管理組合の定期総会で承認された。ところが東急不動産は3月末、一転して「建て替えを中止する」と表明。元の部屋は買い取るが、仮住まいを明け渡すよう住民に求めた。入居していた44戸は買い取りに応じて転居していったが、5戸の住人6人は納得がいかなかった。
住民側は今年6月、マンション建て替えの義務確認や、建て替え計画案策定のために住民らが委託した設計事務所への調査費用など計約5800万円の支払いを求め、東京地裁に訴えを起こした。
東急不動産広報室は産経新聞の取材に「係争中のため、コメントは差し控える」としている。
「裏切られたというよりだまされた」管理組合理事長が批判
「非常に悔しい思いをしてきた。人権侵害ともいえる方法だ」
原告の一人で、「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」に住んでいた三身(さんみ)太郎さん(55)は怒りをあらわにする。三身さんは管理組合の理事長として、東急不動産との交渉にあたってきた。
入居したのは平成10年のマンション完成と同時で、新婚だった。この場所で子供を育て、地域に親同士のつながりもできた。最寄り駅には徒歩2分、渋谷駅にもタクシーで2千円程度の立地も気に入っていた。
「ふるさとといっても過言ではない」が、令和3年に東急不動産が建て替え方針を表明してから、仮住まいが続いている。「早く戻りたい」と語る思いは切実だ。
仕事を抱えながら、組合理事長として、移転でバラバラになった住民をまとめ、東急不動産と話し合いを進めた。一度は新しい建築計画がまとまったが、撤回された。「裏切られたというより、だまされた気持ちだ」と憤る。
ほとんどの入居者は東急不動産の買い取りに応じたが、中には長期化を望まずしぶしぶ売却した人もいるという。「住民の思いとともに戦っていく」と語った。(橘川玲奈)
産経新聞 2025/8/3 22:02
https://www.sankei.com/article/20250803-WH3O6GX64RPS5IPWAZDYZKXDRM/